サッカーが盛んに行われている国ブラジルには日系人によって持ち込まれた多くのスポーツが存在する。柔道、野球、柔術、相撲はその一例だが、その中で、相撲はブラジルでも盛んに行われていることはあまり知られていない。相撲はブラジルで戦前から行われており、1908年に始まった日本人移民の歴史と同様に実に歴史のあるスポーツである。
ブラジルでは相撲は柔術や柔道ほど知名度はないものの、子供や女性も参加し、多くの相撲愛好者が存在する。そんな南米の土俵で生まれた一人のブラジル人力士が日本の大相撲で大活躍している。その名は魁聖一郎、本名はリカルド・スガノ。２００６年にブラジルから来日し、元十両・若東の黒田吉信から紹介された友綱部屋に入門した。現在では唯一のブラジル人大相撲力士で、ブラジル人初の幕内力士である。私達は練習が行われている東京の友綱部屋で魁聖と会い、その素顔に迫ってみた。

幼い頃から日本の文化とふれあう機会はありましたか？
僕は父方の祖父母が日本人ですが、小さい頃、祖母に「ありがとう」「トイレへ行きたい」など、いくつかの日本語の簡単な表現を教わった記憶があります。僕はアニメが大好きで、子供の頃からドラゴンボールを見ていましたし、日本へ来ることは自分の夢でした。

相撲をはじめたきっかけは？
子供の時から僕の体系は少しぽっちゃりしていましたが、スポーツは大好きでした。柔道をやっていましたが、週末にはサッカースクールへも通っていました。実はサッカーはあまり好きではありませんでした。高校生の頃、僕の父の知り合いに相撲をやってみないかと誘われてはじめました。その時１６歳でしたが、相撲との初めての出会いでした。

ブラジルでは相撲をやっている人はたくさんいますか。
僕がブラジルに住んでいた頃はいましたが、以前に比べて少なくなったと思います。支援団体もないので世界大会に出場する時はすべて自費で参加をしなければなりません。実力はあっても資金の問題で世界大会をあきらめるブラジル人もたくさんいます。

大相撲へ入ったきっかけは？
日本で相撲の世界大会に参加した時、テレビで相撲力士を見て、相撲へのあこがれは強くなっていきました。そしてブラジルへ戻った時、日本の相撲部屋へ入れるチャンスはないか知り合いなどに相談してたら、友綱部屋を紹介してもらえました。その時、友綱部屋にはもう一人ブラジル人がいましたが、彼は帰化していましたので、友綱部屋に入れてもらえました。各部屋に所属できる外国人力士は1人と決まっているためです。

他に日本で大相撲に参加しているブラジル人はいますか。
今は僕だけです。以前は１０人ほどいましたが、全員日系人で日本国籍も持っていました。

はじめの日本の生活はどうでしたか。苦労したことは？
いろいろ苦労しましたが、やはり言葉に苦労をしました。その他、日本の食べ物、先輩後輩などの上下関係、少し話せるようになると敬語を学び、1年半過ぎた頃にはみんなと交流をすることで、自然に覚えていくことができました。

ブラジルと日本の練習の違いについて教えてください。
ブラジルでは午後に約2時間練習くらいでしたが、日本はブラジルと比べられないほどの厳しさがあります。練習以外にも、毎日の生活でも厳しい教えがあるのです。まず早起きをして、新人の時は6時から11時まで仕度をしなければなりません。僕も新人の頃、みんなと同じように扱われましたが、周りすべての人は優しく接してくれました。僕が入った時、一緒に相撲のことを手伝ってくれたブラジル人にもとても感謝しています。

憧れの相撲力士はいましたか。
同じ友綱部屋の魁皇です。ブラジルに住んでいた時からインターネットでも情報は見ていました。友綱部屋へ来て直接本人と話をすることができた時は感動しました。とても親切にいろいろ教えてくれました。

目標を教えてください。
日本へ来て間もない時は十両が目標でした。その次に幕内が目標でした。今は大関まであがることです。

得意技を教えてください。
僕は寄り切りが得意です。土俵の外に押し出します。

ご両親は魁聖さんのご活躍をどう思っていますか。
とても喜んでいます。ケーブルテレビで試合放送を見ていますが、時間差で夜の放送になります。だから、週末にまとめてみるようにしているそうです。父は僕が小さい時から練習や大会に連れていってくれましたのですごく喜んでいます。母はブラジルの新聞に僕の記事が掲載された時はとても喜んでいました。

ブラジルについて話を戻しますが、ブラジルが恋しくなることはありますか。
もちろんです。特に食べ物ですね。１度ブラジルへ戻りましたが、４～５日間の滞在でした。カーニバルの時期でしたが、とても楽しかったです。僕はサンパウロ出身ですが、ブラジルで父と歩いていた時、日本でいつもやっているように外で財布を取り出してお金を数えていたら、父にすごく怒られました。日本は安全だからいいですね。

ブラジル料理で好きな食べ物をひとつ教えてください。
ひとつだけですか（笑）。好きな食べ物はたくさんありますよ。特に庶民の料理と呼ばれているものはたまらないですね。コシーニャ、リゾリス、チーズパン、チュロス、エンパジーニャなど。フェイラ（路上市場）でよく食べていたパステルとサトウキビジュースも大好きです。ブラジルに住んでいた時は学校の帰りにパン屋さんに寄ってチーズパンを食べるのも大好きでした。今はそれがとてもほしくなりますね。僕の母もとても美味しい自家製のチーズパンを作ってくれていました。あとはご飯とフェイジョン（豆料理）などの家庭料理。ブラジルへ戻った時、ブラジルチュロスが食べたかったのですが、時間がなく食べられませんでした。

最後に、日本に多く在住するブラジル人にメッセージをお願いします。
とにかく日本語を勉強してください。まずは言葉を学ぶこと。日本に住んでいるならこれほど重要なことはないです。毎日の仕事の忙しさで大変かもしれませんが、日本人の友人を作れば毎日の生活で使いながら話せるようになるはずです。皆さんの職場についてよくわかっていないので、勝手なことを言ってしまっているかもしれませんが、とにかく日本語を使うことです。はじめはうまく話せなくても、頑張ればきっとみんなは協力してくれるはずですから。