ボサノヴァシンガー 小野リサ

登録日:2013年3月5日

 

人々を魅了するハスキーで優しい歌声の小野リサ。
日本でもっとも親しまれているボサノヴァの歌姫に迫る。
とある日曜日の夕方、東京四谷の広い通りを歩いていると、まるでサンパウロにいるかのような懐かしさに包まれた。ブラジル料理の香り漂う都会のメインストリート。その先に、サッシペレレと書かれた足1本のかわいい男の子の絵がある看板のレストランを見つけた。ドアから一歩入ると、そこにはブラジルの世界が広がっていた。そして、ショーの開始を待つ観客からは、期待感と緊張感がありありと伝わってきた。何故ならここは、今や何万人もの聴衆を魅了する偉大なアーティスト、小野リサの出発点となった場所なのである。

サッシペレレでのライブは10年ぶりに行われようとしていた。和やかな雰囲気の中、ライブはボサノヴァの名曲から始まり、後半からサンバ音楽へと移っていった。そう、サンバこそ小野リサの原点なのである。

Origens音楽の原点

小野リサは3人姉妹の次女で、小さい頃からブラジル音楽に親しんでいた。父はブラジル音楽をこよなく愛した日本人で、1958年に渡伯すると、有名なギター奏者、バーデン・パウェルのマネージャーを務め、またライブハウスICHIBANを開いた。ICHIBANではフローラ・プリン(Flora Purim)、ベニト・ジ・パウラ(Benito Di Paula)、ヴァウテール・ヴァンデルレイ(Walter Wanderley)などの大物アーティストが出演するブラジルでも有名なライブハウスであった。また、松尾和子、坂本九など一流日本人のアーティストも参加するなど、積極的に音楽のイベントを行っていた。
その後、小野一家は日本へ戻り、72年にサッシペレレを始めた。当時サッシペレレの上の階は、ブラジル料理のレストランだった。
父親の夢は音楽の道に進むことであったため、娘達にも常に音楽に触れさせようとした。子どもたちの中でも特に音楽に夢中になったのは次女のリサであった。彼女は子どものころからサンバを歌い始め、15歳でギターを学んだ。
小野リサはそのころから少しずつボサノヴァを覚えていった。ジョアン・ジルベルトを聞いたり、ギターを学ぶうちに、サンバのリズムから、ボサノヴァのハーモニーに魅了されていった。中でも特にジョアン・ジルベルトの影響が大きかったと言う。コード、奏法のまねをしたり、とにかくよく聞いていた。
そんなライブをこなしていた時期、ある日とあるホテルからスローテンポでやさしい、ロマンチックな歌だけをやってほしいという出演依頼を受けた。
「はじめてボサノヴァのみの演奏をしました。それまではサンバのような賑やかなナンバーだけを演奏していましたが、このホテルでの経験は自分自身のスタイルを発見するチャンスでした。」と言う。

Meu Brasil brasileiroブラジル 
小野リサはサンパウロ市の中心部のパウリスタ通り(Avenida Paulista)で生まれ、10歳までブラジルで暮らしていたが、特に父親のライブハウスは思い出深いと言う。小野リサはサンパウロに住んでいた時からすでに両親とは日本語で話していたので、日本での生活にはすぐになれることができた。もちろん、ポルトガル語も話す機会はあったが、両親とは常に日本語で話していた。両親は二人とも日本人なので日本に来て困ったことはなかったという。「日本の生活にも慣れ、私もポルトガル語が話せなくなるところでしたが、ブラジル音楽と父のおかげで今でも話せます。ブラジルの食べ物、生活にはとても“サウダージ”(郷愁)を感じています。」
ブラジル料理について小野リサに聞くと、「ブラジル料理はなんでも好きです!でも、やっぱりフェイジョアーダが一番ですね。母は日本料理もブラジル料理もとても上手ですが、その母が作ってくれるフェイジョアーダは最高です。」
小野リサは以前、毎年ブラジルでレコーディング行っていた。4~6カ月滞在し、冬に行って春に戻るというスケジュールであった。ファーストアルバムの「Catupiry/カトピリ」もブラジルでレコーディングを行い、89年から毎年1枚のペースでリリースしていた。「でも、最後に行ってからもう10年になります。今子供もいるのでブラジルへ行くのがもっと難しくなっています。」と言う。

「ブラジル音楽と父のおかげで今でも
ポルトガル語が話せます。ブラジルの食べ物、生活にはとても“サウダージ”(郷愁)を感じています。」


Momento marcante忘れられない思い出
ボサノヴァシンガーとして不動の地位を築いていた小野リサは、すでに多くの著名アーティストと共演を果たしていた。中でも特に強く印象に残っているのはボサノヴァの父であるアントニオ・カルロス・ジョビンとのレコーディングであった。それはアントニオ・カルロス・ジョビンが亡くなる年の出来事でもあった。小野リサは『Estrada Branca/白い道』を選びレコーディングを行った。「ジョビンの部屋にはYAMAHAのピアノ、SEIKOの時計や日本製の車もあり、とても日本の事を気に入ってくれているようでした。でも、それとは関係なく、彼は本当に素晴らしい人でした。」
アントニオ・カルロス・ジョビンとのレコーディングのほか、息子と孫のパウロ・ジョビンとダニエル・ジョビンとも共演を果たすこともできた。彼らはCD『Bossa Carioca/ボッサカリオカ』のレコーディングにも参加し、小野リサはとても不思議な力を感じたという。「うまく説明はできませんが、彼らが参加をするだけでアントニオ・カルロス・ジョビンの魔法に取りつかれるようでした。お父さんの影響なのでしょうか。1音を奏でるだけでアントニオ・カルロス・ジョビンの世界に入り込んでいきました。とても不思議で感動でした。彼らと一緒にレコーディングが行なえたことはとても光栄なことです。ボッサカリオカは私にとってお気に入りのCDのひとつです。」

Japão
ジャポン
ボッサカリオカのレコーディングが終わり、ジョビンファミリーとの共演を果たした後、小野リサは『音楽の旅/Viagem Musical』という題で、アメリカの30年代の曲を皮切りに、ハワイアン、フレンチ、イタリアン、アフリカン、アラブ、と世界の音楽を巡り、旅の最後は日本で締めくくるという構成で、世界のあらゆる音楽をボサノヴァ風にアレンジした。「『Japão/ジャポン』は今までポルトガル語で私の歌を聴いてくださった皆さんに感謝を込めて、日本語で歌いました。ちょうど収録曲を決めていた時に東日本大震災があったため、このCDに込められる日本への思いはさらに強まりました。そして今、『Japão2/ジャポン2』の制作に取り掛かっています。来年発売される予定ですが、震災で大変な被害を受けた方々に捧げるという気持ちを込めながらレコーディングをしています。」と語る。

Mensagem
メッセージ
「まったく違った文化の国で暮らすことはとても大変なこと、狭い日本に暮らすブラジル人にとって大きな問題はスペースでしょう。スペースがあれば自分の好きな音量で音楽を楽しむことはできる。もっと大きく歌える。ブラジル人はとても広いところで育っているので、日本はとても窮屈に思えてしまうことでしょう。でもブラジル人もやっぱり幸せに生活する権利はあるし、日本の人にそれが理解してもらえることを願っています。ブラジル人もまた日本の習慣をよく理解する必要があります。そのためにはもっと交流を重ねることが大切。お互いがもっと話し合い、そしてお互いの国のいいところを学んでいいのではないでしょうか。ブラジル音楽はとにかく私たちを明るくしてくれます。それこそ、今の日本にとって最も必要とされているものなのだと思うのです。」











ポルトガル語を学ぼう!
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